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最高裁判所第一小法廷 平成2年(オ)1128号 判決 1994年7月14日

上告人

中西新

右訴訟代理人弁護士

吉井秀広

加藤修

塩田直司

藤田光代

國宗直子

被上告人

太平住宅株式会社

右代表者代表取締役

西田為厚

右訴訟代理人弁護士

鶴丸富男

主文

原判決中、上告人の本訴請求に関する部分を破棄し、第一審判決を取り消す。

上告人の本訴請求に係る訴えを却下する。

本訴請求に関する訴訟の総費用は上告人の負担とする。

理由

一  職権をもって検討するに、記録によれば、次の事実が認められる。(一) 熊本地方裁判所は、同庁昭和六二年(ケ)第二一〇号不動産競売事件につき、配当期日の平成元年一月一一日に配当表(以下「本件配当表」という。)を作成した。(二) 上告人は、右競売の開始後、株式会社住宅総合センターが競売の目的物件について有する抵当権及びその被担保債権の一部を法定代位により取得した者であるが、抵当権移転の附記登記を経由しておらず、本件配当表に債権者として記載されなかった。(三) 上告人は、前記配当期日において被上告人に対する配当につき異議の申出をした上で、本件訴えを提起して、本件配当表のうち、被上告人に対する配当の額の一部を減額し、これを上告人に対する配当の額とする旨の変更を求めた。右の事実関係の下において、原審は、上告人が本件配当表につき配当異議の訴えを提起する原告適格を有するとして、本案につき判断し、上告人の請求を棄却した第一審判決を正当として、上告人の控訴を棄却する旨の判決をした。

二  しかしながら、原審の右判断のうち上告人が原告適格を有するとした点は、是認することができない。その理由は、次のとおりである。

不動産競売事件の配当手続において、執行裁判所は、民事執行法八七条一項所定の配当を受けるべき債権者に該当すると認めた者を配当期日に呼び出し、配当期日において必要な審尋等を行い、配当表を作成するものとされ、配当表には、各債権者について債権の額、配当の順位及び額等を記載するが、配当の順位及び額は、全債権者間に合意が成立した場合にはその合意により、その他の場合には実体法の定めるところにより記載することとされている(同法一八八条、八五条)。配当異議の申出及び配当異議の訴えは、このようにして作成された配当表中の債権又は配当の額に対する実体上の不服につき、争いのある当事者間で個別的、相対的に解決するための手続であると解される。したがって、配当表に記載された債権又は配当の額について配当異議の申出をし、配当異議の訴えを提起することができるのは、配当表に記載された債権者に限られ、配当表に記載されなかった者は、自己が配当を受けるべき債権者であることを主張して配当異議の訴えを提起する原告適格を有しないと解するのが相当である(配当を受けるべき債権者であるにもかかわらず配当表に記載されなかった者は、配当表の作成手続の違法を理由として、執行異議の申立てによりその是正を求めるべきである。)。

これを本件についてみるに、上告人は、本件配当表に債権者として記載されなかったのであるから、本件配当表について配当異議の訴えを提起する原告適格を有しないものというほかはなく、本件訴えは不適法として却下すべきものであったといわなければならない。

三  したがって、以上と異なる見解に立ち、上告人が本件配当表について配当異議の訴えを提起する原告適格を有するとして、本案判断をした原判決及び第一審判決には、法令の解釈適用を誤った違法があり、その違法が判決の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから、原判決中、上告人の本訴請求に関する部分を破棄して、第一審判決を取り消し、上告人の本訴請求に係る訴えを却下することとする。

よって、民訴法四〇八条、三九六条、三八六条、九六条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官三好達 裁判官大堀誠一 裁判官小野幹雄 裁判官大白勝 裁判官高橋久子)

上告代理人吉井秀広、同加藤修、同塩田直司、同藤田光代、同國宗直子の上告理由

第一 原判決は、左記のとおり判決に影響を及ぼすことが明らかな重要事項について理由不備、理由齟齬、法令違背の違法がある。

第二 一 原判決が「坂口亮一が昭和六〇年五月二日株式会社住宅総合センターから借り入れた四、二〇〇万円(甲債権)と一億二、八〇〇万円(乙債権)の両債権が実質上同一であり、別個の債権として被控訴人(被上告人)が主張することは信義則上許されないとすることは、全証拠によるもこれを認めるに足りない」と判示することの誤り。

甲債権と乙債権が同一であるか、異別であるかの基準は、当事者の異別、融資期日の異別、融資目的、各弁済期、最終期限、利率等を総合的に勘酌して判断すべきものである。

本件においては、甲第七号証によれば甲債権と乙債権の合計金額である金一億七、〇〇〇万円を訴外住宅総合センターが訴外坂口亮一に融資したことが明らかである。

次に、甲債権と乙債権に関して公正証書が各作成されている。すなわち、甲債権については乙第三号証、乙債権については乙第四号証である。

これらの書証を検討してみるに、借入日は昭和六〇年五月二日、使途は賃貸用内科医院建設及び底地借替資金、最終期限は昭和八五年一一月六日、第一回弁済日昭和六〇年一二月六日、第二回以降弁済日毎月六日、利率月利〇、七一五パーセント等すべて同一であり、甲・乙両債権は同一のものであるといわなければならない。

然るに原判決は甲債権と乙債権とが異別のものとの前提に立ち、上告人と被上告人が民法五〇一条但書五号の関係に立たないと判示した。

明らかに理由不備の違法がある。

二 原判決が「甲債権の一部弁済により法定代位した物上保証人たる控訴人(上告人)が取得した(一部)先順位抵当権(甲抵当権)と乙債権の全部弁済により法定代位した連帯保証人たる被控訴人(被上告人)が取得した共同抵当における後順位抵当権(乙抵当権)とが本件配当表を巡って競合している場合」すなわち本件において「控訴人(上告人)が一部代位で取得した甲債権の一部とそれを担保する甲抵当権は、被控訴人(被上告人)が全部代位で取得した乙債権と乙抵当権に後れると解するのが相当である」(控訴審判決一二乃至一三頁)と判示したことの誤り。

原判決は右結論の理由として、「後順位抵当権者は、共同抵当の目的物のうち債務者所有の不動産の担保価値ばかりでなく、物上保証人所有の不動産の担保価値をも把握しうるものとして抵当権の設定を受けているものであり、一方、物上保証人は、自己の所有不動産に設定した後順位抵当権者による負担を右後順位抵当権の設定の当初からこれを甘受しているものというべきであって、共同抵当の目的物のうち債務者所有の不動産が先に競売された場合、又は、共同抵当の目的物の全部が一括売却された場合との均衡上、物上保証人所有の不動産について先に競売されたという偶然の事情により、物上保証人がその求償権につき債務者所有の不動産から後順位抵当権者よりも優先して弁済を受けることができ、本来予定していた後順位抵当権による負担を免れるというのは不合理であるから、物上保証人の不動産が先に競売された場合においては、民法三九二条二項後段が後順位抵当権者の保護を図っている趣旨にかんがみ、物上保証人に移転した先順位抵当権は後順位抵当権者の被担保債権を担保するものとなり、後順位抵当権者はあたかも右先順位抵当権の上に同法三七二条、三〇四条一項本文の規定により物上代位するのと同様に、その順位に従い、物上保証人の取得した先順位抵当権から優先して弁済を受けることができるものと解すべきであるからである(最高裁昭和五三年七月四日判決参照。)」とする。(控訴審判決一〇頁裏乃至一一頁裏)。

しかし、原判決の右論理は、物上保証人と固有の後順位抵当権者相互間の問題としては妥当するとしても、被上告人はそもそも固有の後順位抵当権者ではなく連帯保証人であり、この事実を原判決は看過している。

すなわち、民法は本来(連帯)保証人と物上保証間においては、その優劣をおかない趣旨である。しかも実質的にいっても、連帯保証人となった被上告人は、物上保証人すなわち上告人が将来その目的不動産で弁済することは当然に予測すべきであり、予測しえたものである。

したがって、連帯保証人(被上告人)とすれば将来、物上保証人(上告人)が代位によって、その満足をうけ、その結果、自分自身が十分な満足をうけることができなくなることは甘受すべきといわなければならないのである。

明らかに、原判決には判決に影響を及ぼすこと明らかな重要事項につき法令違背、理由齟齬、理由不備の違法がある。

三 以上の結果、いずれの見地からしても、原判決には判決に影響を及ぼすこと明らかな理由不備、理由齟齬、法令違背の違法があり破棄されるべきである。

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